「Without you」が持つ「特別な意味」についてはこちらの記事で触れましたが、この楽曲にはもう一つ大きな特徴があります。それは本楽曲のアレンジの多様さです。
X JAPANの楽曲は、その完成度の高さ故、一度オリジナル構成が確定した後は、大幅にアレンジを変更しません。もしオリジナル構成を変えた場合は、別の副題が正式に付けられることが多いです。(例えば、WEEK END`95 Longing~切望の夜~、Forever Love ~LAST MIX~など)
しかし「Without you」に関しては『ETERNAL MELODY II』では「クラシック・アレンジバージョン」と副題があるのものの、それ以外は状況に応じてどんどんアレンジが変わっているのです。同一のツアーを除き「同じ構成で演奏されたことはほぼない」のが「Without you」という楽曲の特長といえるでしょう。
実際、どのようなアレンジ遍歴があるのか確認してみます。
「Without you」が初めて公に披露されたのは、2003年「X JAPAN FILM GIG」です。この時はバッキングトラックのみ演奏されました。この時点で楽曲のアレンジは、ほぼ固まっていたと考えられます。
その後、2005年にYOSHIKIのソロ・クラシック・アルバム『ETERNAL MELODY II』に「クラシック・アレンジバージョン」が収録。
そして2008年3月、X JAPAN復活公演で「TOSHIとYOSHIKIによるピアノバージョン」が披露されました。
さらにその2カ月後のhideメモリアルサミットではストリングスが変更、
翌年の2009年に行われた5月の東京ドーム公演でも微妙に変更。
その後も何度か「Without you」は演奏されてますが、わかりやすいところでいうと、2014年「YOSHIKI CLASSICAL WORLD TOUR 2014」においてはセプテットで披露。
そしてつい先日行われた「サンダンス国際映画祭」では、YOSHIKIがピアノソロで披露しました。
※ここでいう「アレンジ」とは楽曲の音色、リズム、速度、旋律、歌詞、演奏者など、曲を構成するすべてを含みます。
過去にも「DAHLIA」や「LONGING」や「JADE」などは、初演とスタジオ音源を比較すると歌詞や構成が一部異なりますが、アレンジ確定後はスタジオ音源に忠実な構成になりました。
「Without you」は2003年の時点で、歌詞も曲構成もほぼ確定していると考えられるので、上記に挙げた楽曲のようにアレンジが未確定のため、複数のバージョンが存在するというわけではなさそうです。
実は「Without you」のように、楽曲構成確定後も、正式な副題が付けられずアレンジを変え続けている楽曲というのが、もう1曲存在します。
それは「ART OF LIFE」です。
この楽曲の素晴らしさと、内包された意味については、到底ここでは説明できませんが、
「Without you」とは別の観点で、X JAPANにとって、YOSHIKIにとって、とてつもなく重要な楽曲であることは間違いありません。
同様に「ART OF LIFE」のアレンジ遍歴を見ていくと、
・2008年復活公演にて前編後編を別日で分けて演奏。
・以降、X JAPANのコンサートではピアノソロからスタートする構成が主流に。
・「YOSHIKI CLASSICAL WORLD TOUR 2014」ではセプテットで披露。
・「サンダンス国際映画祭」ではDJSETで披露。
とこちらも「Without you」と同じぐらいアレンジの多様性があるのです。
この2曲は「X JAPANのコンサート以外でもよく演奏されているから、当然アレンジも増える」ともいえますが、裏を返せばこの2曲はYOSHIKIにとって「X JAPANのライブ以外でも演奏する必要がある(しなければならない)楽曲」であるということです。
なぜなら、この2曲は「YOSHIKI」というシンボリックな存在を表す「象徴的楽曲」なのです。
「代表曲」と「象徴曲」というのは主体が違います。
「代表曲」はファンが主体ですが、
「象徴曲」は製作者。X JAPANの場合は「YOSHIKI」が主体です。
感覚的な違いでいうと、
「代表曲」はライブで定番化してほしい楽曲。
「象徴曲」は毎回演奏しなくてもよい楽曲。
ファン目線でいうと
「代表曲」は極力アレンジは変えてほしくないと感じる楽曲。
「象徴曲」はその時々に応じて積極的にアレンジを変えても違和感がない楽曲。
といえます。
「Without you」や「ART OF LIFE」がアレンジを変え続けても違和感がなく受け入れられるのは、YOSHIKIという現在進行形の存在を説明しているからと言えそうです。
実際、YOSHIKIは初演の会場の場合、この2曲(どちらか)を演奏することが多いです。この2曲を演奏することで「YOSHIKIとは何者なのか?」が説明しやすいのだと思います。
変な言い方ですが、「象徴曲」であるこの2曲は「YOSHIKIのもの」です。
こちら記事で「YOSHIKIが生きている限り「Without you」はスタジオ音源化されない」と書きましたが、YOSHIKIという存在が進化を続けている以上、象徴曲でもある「Without you」も「スタジオ音源」として区切りをつける必要はないのです。
そしてまた「ART OF LIFE」も、YOSHIKIのこれからの人生と共に、どのような進化を遂げるのか楽しみです。